体罰学園特別編  転校生Aの悲劇・・・ 7


「・・・で、あるからして・・・こらっ、佐藤っ!どこを見ている!!」
「・・・・・・・すみません・・・」


授業中、先生に熱美は注意されヘコんだ。
シュン・・とし覇気もなく下を向いたまま終了のチャイムがなり熱美は鞄から弁当をゆっくりと取りだす。
たこさんウインナーに唐揚げにプチトマト、お母さんの手作り弁当だ。
小栗への失恋から一週間、元気のない熱美の為、好物ばかりを作ってくれる甘々な母親のふりかけごはんさえ
味がしない重度の病、

初めての失恋

と彼女は闘っていた。
休み時間、そして楽しいはずのお昼時間も1人でいる彼女。
最初こそクラスメイトの女子とも一緒にいたが窓から外をボー・・と見つめる彼女から1人、また1人と徐々に離れて
いってしまった。
かといって嫌われる理由もなくクラスメイトとしてはそばにいる理由もないだけだが・・・


そっとしといてあげようよ。やっぱケイ太のあれが超ショックなのよ


本当は違う。熱美的にはケイ太のした事などもうなんとも思ってなく、むしろ泣き喚く自分を迎えに来てくれた彼を
どうしたらいいのか分からなくなっていた。
そうなのだ。
熱美にとって何かが変わろうとしていた。
失恋により大好きだったオグリサマは思い出となりどうした事であろう。
加藤ケイ太が

眩しい

のだ。
ヤンチャでどスケベなクラスの問題児がすっごく眩しくてしょうがない存在に変貌してきているのに熱美はとまどって
いたのだ。
相変わらずケイ太は他の男子たちとバカ話で騒いでいてあれ以来熱美にちょっかいをかけなくなったが彼は彼なりに熱美に気を使っているのかもしれない。
それどころか熱美自身がケイ太を直視出来ず目が思わず合いそうになるとプイッとそむけてしまう。

やだ・・私ったら・・・

「ってかそんなの熱美がケイ太君・・・だっけ?好きになりかけてるんじゃん(笑)。恋よっ!恋っ!!」
携帯の向こうで旧友、真紀子が叫ぶ。
「そ、そうかなあ・・・」
「熱美はさぁ、小栗さんの事がまだ心のどこかにあるんだと思う。だから彼を好きになりかけている自分自身を認めたくないのよ、きっと」
「・・・すごーい。まきちゃん彼氏いないのによく分かるよね・・」
「って昨日見たテレビドラマで言ってたじゃん♪見なよジョニーズのヨッチンでてるよー♪」
「ガクッ・・・・・」


だが的は得ていた。
抱き枕を抱え明かりを消し暗闇の中浮かんでくる顔・・それはもう小栗ではなくクラスメイトの加藤ケイ太だった。

何かしら・・凄く熱い・・・これは・・・

恋である。
あれ程悩んだオグリサマや山本香織などもう何も浮かばない。
考えども考えども脳裏に浮かぶのは笑顔のケイ太ばかり。

なんでだろう・・・ああ、そうだわ

優しかった。いたずら坊主のくせに・・・くすくす・・


笑顔のケイ太はやがて傷心の熱美を救い、彼女の密かな支えになった。
ドラマでもなんでもない現実ではケイ太に告白する事などなく片思いのまま、おかげで彼女はゆっくりと失恋の傷が
癒えていき毎日クラスでケイ太を見るのが楽しみになっていった。
スポーツ少年で休み時間はサッカーをやり、意外と背が高くお昼は学食のエビのタルタルサンドを必ず買って
食べていた。
気になる彼女・・・はどうやらいないらしいが親しみやすい人柄で思ったより女子が話しかけてくる。

私もおしゃべりしたい・・・でも・・・

きまずい。
熱美は机に座り他の女子たちが楽しそうにしゃべっているのをチラ、チラと盗み見してはかすかなジェラシーを
感じていた。

私に、熱美に

振り向いて欲しいな・・


こうやって昔の明るい前向きな佐藤熱美が戻ってくる。
無敵な熱美が戻ってくる。
ティラミス大好きな熱美は、ティアードワンピな熱美はやがてみんなの輪の中に入っていった。

「やだぁっ、ケイ太っ、佐藤ちゃんの胸見てるぅーっ!!このドスケベッ!!!」
「違うわっ!ってそれ胸かよ、マスクメロンかと思ったゼ(大笑)!!」
「加藤、目ぇ悪っ!!」
「佐藤ちゃんケイ太馬鹿だから(汗)気にしない気にしない」
「あ・・熱美、熱美でいいよ。前の学校だとそう呼ばれてたから」
「あ・つ・み♪」
「ってお前がいうなぁー(笑)♪」


震える手。
上ずる声。
だがみんな、実は待っていたのかもしれない。
いつか熱美が本当のクラスメイトになる事を。

ようこそ

と開かれた扉、そこは体罰学園に違いはない。
だが必ずしもデンジャラスで理不尽な事ばかりではない。
忘れてはならない。普通の学園生活を送る生徒達も沢山、沢山生きている事を。
何度でもやり直せる事を。
小栗と香織はリセットボタンを壊し、二度と戻れない究極の美学へ駆けていった。
たった2人だけの、それはそう・・愛の世界かもしれない。
何をされても何があっても2人ならば生きられる異端者が持つ普遍の愛の形。
だが熱美は異端の道をいかずオグリサマと別れリセットボタンを押し、やがてケイ太の優しさにふれる。
今でも小栗の授業を受け、、香織のお仕置きを何度も何度も写されるこの世界で佐藤熱美は結局普通の生活を
選んだという訳である。
ささやかな幸せを悲しみの果てに掴んだ熱美・・・だが・・最後の最後に彼女は人生最大の試練を
受ける事になる。


                                                                

体罰学園特別編・転校生Aの悲劇8に続く